Day5 卵子凍結について
出典:ラジオ「ドクターアドバイスで今日も元気!!」
今週のテーマ:「どうしてヒトは妊娠しにくいの?卵子凍結は必要なの?」
Day5 Friday
卵子凍結について
Q1:きょうは卵子凍結について伺います。この卵子凍結とは、具体的にどのように行われる治療なのでしょうか?
その治療法は、通常の体外受精とほぼ同様な治療になります。できるだけ複数の卵子を保存するのが望ましいため、薬により複数の卵子の発育を促したのちに、採卵手術にて卵子を回収し、その中から成熟した卵子を特殊な方法で凍結し、液体窒素の中に保存します。保管は半永久的に可能であるとされています。
通常の体外受精との違いは採取された卵子を精子と掛け合わせて受精を促すことがなく、そのまえに凍結保存を行うことになります。
したがって、卵子凍結を受ける女性は、通常の体外受精と比較して特殊な治療を受けるわけではありません。
Q2:では、どのような方が卵子凍結の適応となるのでしょうか?
卵子凍結の適応は大きく医学的適応と社会的適応に分けられます。
医学的適応とは、がんなどの病気の治療に伴って将来的に妊娠する能力が失われたり低下する恐れがある方に対し、治療後にも妊娠できる可能性を保存する目的で行われます。
それに対して、社会的適応とは、まだ配偶者のいない女性が、将来的に加齢により妊娠する能力が低下した場合に備えて、妊娠できる可能性を保存する目的に行われます。
いずれの場合でも、卵子の老化が進む前で、かつ適切な年齢で出産できることを前提に治療を進めるため、実施に当たっては全ての年齢の方が適応となる治療ではありません
Q3:続いて、卵子凍結には注意するべき点などはありますか?
卵子凍結は、凍結保存により卵子の時間を止めて「将来の妊娠の可能性を残すことができる」治療法です。
ただし、卵子の凍結保存は、受精卵である胚の凍結保存と比較して、妊娠出産の成功に至る確率がより不確実であることが知られています。
また、卵子を若いうちに保存できても、その後の加齢に伴い、母体の健康に問題がある際などには、妊娠に伴う合併症の危険性が増加することも考えられます。
したがって、卵子凍結は、治療の不確実性や母体の加齢に伴い「将来の妊娠を保証するものではありません」
また、卵子凍結のためには、卵巣刺激法などの治療に伴う合併症リスクも存在します
そういったリスクや不確実性というものも理解して望む必要があります。
Q4:東京都などの一部自治体や、大手企業などではこの社会的適応による卵子凍結に対して、治療費の一部支援などの事業の実施を始めていることが話題になっています。先生は、この社会的適応による卵子凍結について、どのようにお考えですか?
まず前提となるのは、女性が妊娠・出産するということは社会的圧力などによって強要されるものではないということです。子供を産み育てるということや、妊娠する・しないことの選択は、それぞれの女性個人個人の権利であるということを社会全体で理解することが必要だと考えます。その上で、現代社会を維持するためには、働く女性が多くの役割を果たしていることを忘れてはならず、女性の働く権利もまた大切です。
ただし、妊娠を試みることを先伸ばした結果、加齢が進んだ場合、不妊や妊娠に伴うトラブルが増えてしまう事実は変えられません。そのため、いかにして妊娠したい気持ちを守りつつ働く権利を守るのか、その両立を考えないといけない時代になっていると思います。
その、働くことと、妊娠できる可能性の両方を守るという意味で、卵子凍結という技術へのアクセスをより容易にするという必要はあると考えます。
私たち、山形大手町ARTクリニック川越医院でも、社会的適応による卵子凍結の実施を始めています。社会的支援の充実という点でも、この放送をきっかけに議論や動きが深まってくれることを期待しております。
Q5:先生の診療を通じて思うところで、特に男性に向けて伝えたいことはありますか?
不妊治療の現場でよくあるのが、男性が女性の治療に同意できないということです。
夫婦の間の子作りに、第3者が介入するのがおかしな気がするというのは自然なことで理解できます。
また、ありがちなのが、男性に「パートナーに無理をさせたくない」ので不妊治療をしなくて良いと考えることです。
ただし、それは、女性が治療してでも子供が欲しいと願う気持ちに応えていないのではないかと考えます。
むしろ2人の間に子供を作ろうと努力したいパートナーを積極的に支えてあげるのが男性の役割と考えます。
そのためにすべきことは、男性自身の状態改善で、タバコを吸う方の場合は禁煙が必須です。
また、社会的にも、女性の妊娠を望む気持ちに応えられるような社会づくりへの参加や協力も必要だと思います。
2025年1月9日