ブログ

Day3 人が妊娠しにくい理由としての、染色体不分離

出典:ラジオ「ドクターアドバイスで今日も元気!!」
今週のテーマ:「どうしてヒトは妊娠しにくいの?卵子凍結は必要なの?」

 

Day3 Wednesday

人が妊娠しにくい理由としての、染色体不分離

Q1:前回は、ヒトは妊娠しにくい動物であるということ、その原因として受精卵である胚が出来る過程で染色体の不分離、つまりは均等に遺伝情報の分配が起こらないエラーが生じるためで、それが結果として胚(受精卵)の中の染色体の異数性を招くためであるということを伺いました。この染色体の不分離や染色体の異数性は日常的に起こることなのでしょうか?

実は、かなりの高頻度で起きているということがわかってきています。また、その発生する頻度は胚の発生段階や女性の年齢によって大きく異なることが報告されています。

まずは、胚には受精した段階で約3割の胚に染色体異数性が存在します

その後、受精した胚は細胞分裂を始めます。しばらくは異常のある胚でも分割を続けるのですが、その間に染色体異数性の頻度は増加して、受精後3日目の時点で、約半数の胚には染色体異数性があるとされています。

この段階で異常のある胚の多くは成長を停止するため、受精卵である胚の約半数はそこから先に成長しません。

その後も無事に成長ができる胚は、胚盤胞という、中空のボール状に膨らんだ状態にまで発育します。

その胚盤胞の段階でも染色体異数性を含む胚が存在します。

その割合は女性の年齢に依存して変化しますが、30歳前後の時期には、胚盤胞のうち染色体異数性を認める胚は3割程度なのに対し、40歳ごろになるとその割合が5−6割まで増加します。

そういった染色体異数性を認める胚は、妊娠しない原因や、妊娠しても流産に至る原因となります。

したがって、この染色体の異数性の問題が、女性の年齢が上昇により不妊や流産が起きやすくなる原因となります。

 

Q2:この染色体異数性と言う胚発育の異常につながる問題が、日常的に起こっているという事は大変驚きです。では、胚発生の過程で、染色体異数性の問題を防ぐことはできるのでしょうか?

残念ながら、染色体の異数性を防ぐための具体的な方法と言うのは未だありません。

従って、私たちにできる事は、染色体の異数性を含まない正倍数性胚、つまりは染色体の数に過不足のない胚に巡り合えるように、その可能性を広げるための治療を行うことになります。

 

Q3:では、染色体の数に過不足のない胚に巡り合える、その可能性を広げる治療とは、どういうことなのでしょうか?

それは、体外受精などの生殖補助医療になります。

通常、ヒトでは1回の排卵周期で排卵する卵子は1個です。
それに対して、生殖補助医療では1回の治療周期で複数の卵子の獲得を図ることで、同時並行で複数の胚発育を確認することが出来ます。
その中から発育停止せず、状態が良好な胚を選んで子宮に戻すことで、妊娠に至る可能性を高めることが出来ます。
したがって、年齢が高い場合など、正倍数性胚に巡り会う可能性が低くなっているため妊娠しにくくなっている場合などには、積極的に実施を検討することになります。

 

Q4:事前に、胚の中の染色体の数を明らかにして治療することはできないのでしょうか?

着床前診断といい、事前に胚の染色体の数の状態を明らかにする検査手法は存在します。

ただ、倫理的な問題などがあり現時点では自費診療で行われる検査です。またこの検査は、妊娠に至るまでの期間の短縮にはつながりますが、最終的に妊娠に至る累積妊娠率と呼ばれる成績は検査を行わなかった場合と比べて変わりがないことが知られています

 

ありがとうございます。
女性の年齢があがると胚の染色体異数性の割合が増加するということ、染色体の異数性の問題をできるだけ回避するための手段として生殖補助医療が考えられるとのお話でした。次回は、なぜ女性の年齢上昇が問題の原因となるのかについて伺います。

2025年1月9日

問診票はこちら
WEB予約
お問い合わせ